西暦2100年代。
人類が宇宙時代を迎えるのと同時に、同じく人類の夢であった「抗老化」「抗加齢」技術の究極とも言える、『不老化技術』をも手にしていました。
有人火星探査も継続的で半ば恒常的な、資源及び移住計画のための探査計画へと移り変わっており、月には数万の単位で人々が暮らし、軌道上には無数の宇宙ステーションと植民衛星が建造されていました。
そして、広大な宇宙を行き交う宇宙船のエネルギーとして、最も経済的とされたのが、光帆船と磁気帆船でした。
月の資源や小惑星帯の開発で得られた安価な資源を利用して建造された、無数の帆船。
長大な超伝導コイルで編まれた巨大な反射帆と、初期加速に固定式の推進レーザーを利用した無数の帆船が、太陽系全域で活躍をしました。
寿命というものを意識しなくなった人々にとって、惑星間航行に必要とされる数年単位の航海日程など、なにほどの事でもなかったのです。
微弱な太陽光でも繁殖可能な藻や海草の類から、長期の航海で必要とされる莫大な量の食料やら生活物資の全てを、極僅かな質量と空間を割くことで自給し、人の存在は僅かに何かあった場合の責任をとる事のみとも言えるほどにまで自動化された、航行中の無為な待機時間も、電脳技術が癒してくれました。
ただし、不老化技術も電脳技術も全ての人々に行きわったわけではなく、その恩恵は、圧倒的な経済力と軍事力によって地球を支配していた、大多数の枢軸諸国出身者と、裕福なイスラム諸国の一部の人々、そして、幸運だった極少数の連合国出身者、もしくは、光帆船の船員達にのみ許されていただけでした。
出産制限の行われていた地上に暮らす、大多数の貧しい人々にとって、宇宙とは飢餓も病気も、寿命すら存在しない、まさに天国となり、無数の植民衛星への移民(棄民とも呼ばれた)こそ、その夢の生活を手にする事が可能な唯一の片道切符となっていたのです。
そうして数十年が過ぎる頃には、圧倒的であった枢軸諸国の支配体制は、ますます強固に、磐石のものとなり、危険な外惑星系の衛星群での開発や、金星や水星といった、劣悪な労働環境の元で働く者達の大半は、枢軸諸国出身者以外の者達だけで占められるようになっていきました。
辺境では叛乱や暴動の類も頻発しましたが、永遠とも呼べるほどの時間と圧倒的な軍事、経済力を誇る枢軸体制を、小揺るぎもさせる事はありませんでした。
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