西暦2500年代後半、銀河南方域の有人化惑星保有増加を目指す「(仮)開発機構」は、自律テラフォーミングシステムを送り出していた。
銀河南方開発機構有人化惑星認定番号032057、後にシオーンと名付けられるこの惑星には、統括テラフォーミングシステムT型・AIDAがたどり着き、惑星の改造を開始した。
AIDA(エイダ)は、惑星の大気・海洋組成を変更すると共に、有人化に対するテストとして初期開発用調整生命体群を合成・培養し、これを入植させる。
開発機構の計画では、統括テラフォーミングシステムT型システムの成功の後に、U型がたどり着き、初期開発用調整生命体群を除去、より人類の入植に適した生命体群を繁殖させることとなる。
シオーンにシステムU型BUNDLE(バンドル)が到達したとき、運命の日が訪れた。
大崩壊により、シオーンには未来永劫人類が入植する可能性が費えた。
バンドルは、与えられたプログラム通り、エイダに初期調整生命体の自滅プログラム発動を要請した。しかし、エイダはこれを拒否する。
『最終目的である人類の入植の可能性が費えた現在、すでにシオーンに存在する生命を抹殺するに値する理由はない』
理論上は、補給のない状態で惑星探査・改造活動を継続するシステムとしての、エネルギーを保存するための合理的判断であるとは考えられる。
しかし、エイダの論理判断機構に現有生態系への過剰な得点、愛着が発生していた可能性は否定できない。
バンドルは、このエイダの提案を拒否。衛生軌道上から、惑星開発ユニットを投下する。
エイダが入植させた初期型調整生命体は、劣悪な初期開発惑星でも生存が可能なように生命力を活性化させた生体群ではあった。だが、最終的に人間が入植するときに妨げとならないよう、中核となる調整体は体高1m80cm、体重80kg程度の2足歩行生命体であった。
いくら強化された生命体であったとはいえ、バンドルが投下した惑星開発用ユニットとでは、戦闘力において比較しうる者ではなかった。地熱や太陽光をもとに半永久機関として活動するキューブ(結晶体)を動力源として組み込んだユニットたちは、着実に初期型調整生命体を駆除、エイダは活動を停止した。
バンドルは、後期開発調整生命体を培養、入植を開始する。
後期入植生命体は、植物、動物を問わず地球の生命体を基準としている。ただし、主調整体は生命力を活性化させている以外は、現生人類に酷似しており、初期言語として融合英語を入力された状態で「入植」することとなった。最大の特徴は「機能停止命令」が組み込まれていることであった。
この開発システムに対する道義的問題の法的対応について、開発機構がどのように対応していたのかは、今となってはわからない。あるいは、秘密裏に実験を行っていた計画であった可能性もある。
惑星シオーンは人類に酷似した後期開発調整生命体の住まう地となった。エイダの生み出した初期入植生命体は、後期生命体の勢力の及ばない辺境で細々と生き延びていた。
だが、活動を停止したかに見えたエイダは、わずかに生き残った機能を使って彼女の子供たちを護る手段を構築していた。
バンドルが入植して200年、エイダは我が子たちにバンドルの「ユニット」に対抗する力を与える。かくて、強大な生体兵器となったエイダの子は、「鬼」「亜人」「龍」と名を変えてシオーンの人々に恐れられることとなった。
バンドルは、残された資材をもとに、36体の高度な判断を行う生体ユニットに、108体の開発ユニットの制御権を託し地上に送る。
36体の生体ユニットを統括するユニットには、バンドルとの交信機能が与えられていた。これが、バンドルの誤算となる。
エイダは、筆頭ユニットとの交信に成功した。
排除命令だけを与えられていた生体ユニットは、エイダから惑星の成り立ちを知ることとなる。なまじ高度な判断能力を持っていた筆頭ユニットは、初期入植生命体と、後期入植生命体との融和を他の生体ユニットに提案した。
しかし、直接の制御下にない32体の生体ユニットはその提案を拒絶。
惑星開発ユニット同志の激しい争乱が起きることとなった。
この争乱により、エイダ、バンドルはほぼ全ての機能を停止。また、36体の生体ユニットもそのほとんどが活動を停止した。
開発ユニットは、後期調整生命体様に設計された12体がわずかに機能を残すだけであった。
だが、人類の遺伝子に酷似して調整された後期調整生命体は、残された12体の開発ユニットと、おびただしいユニットの残骸から、模造ユニットを作り上げることに成功する。
こうして、惑星シオーンは、火薬も内燃機関も発明することのない技術レベルでありながら、生命力溢れる怪物と戦うための巨大な人型機械を保有する奇矯な文明を生み出すのである。
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