邦浪記− Far The Paradise To The Border −

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管理者近影(新橋にて)
 

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三題噺
O zittre nicht, mein lieber Sohn
―魔女の託宣―
09.06.23
『dNoVels』「短編小説ばかり書いている」に参加しました。

三題噺:「夜」「ストロー」「片手間」

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「耀(ヨウ)!」
  と、正俊の一言で、首に巻かれていた毛皮が飛び出し、空を飛んで逃げ出そうとしていたらしい第一種事象と思われる影が動きを止める。
「狛(ハク)!」
  同時にカーゴパンツのポケットで騒いでいた白い毛玉が、目にも止まらぬ速さで影の一部を引き裂くようにして、二つの塊りに噛み千切る。
  どうやら狛と向かい合っている方の影、それが本体であるらしい。
「宣下方為有弦入滅……お前の世界へお帰り――」
  と、手にしていた、銀色に輝くストローのような筒を通して鋭く息を吐く。
  もちろんただ息を吹き込んだわけではない。
  内に溜め込まれた全ての気の力で強化した腹筋と横隔膜等の呼吸系は、下手な狩猟用空気銃など及びもつかないほどの威力をもって、硬く締められた小さな護符を発射し、鮮やかな黄金の閃光と白い残像を伴い影を貫く。
  常人でも、勘の鋭い者であれば、微かに風が騒ぐのを感じるであろう。が、それだけであった。
  二週間にわたって様々な怪異をもたらしていた、佃島大橋の影が消えてゆく。
「耀、狛、ありがとう。さ、後始末をしようか」
  本来なら明るい街灯に照らされているはずの、三日前から閉鎖されてしまっている夜の佃島大橋は、下を流れる微かな水音に満たされ静かに横たわっている。
  正俊は霧散した影の一部が流れていった先を慎重に探り、影に力を与えた、今回の事件の大元を見つけた。
  それは橋の欄干に巻きついた、細い銀色の鎖。ネックレスだ。
  一瞬何気なく拾おうとした正俊だったが、不意にその手を引っ込める。
「まったく、あの魔女ときたら、なにが『君なら片手間仕事よ(はあと)』だよ、自分が面倒だっただけじゃないのか? こんなの僕の手に負えるわけないじゃないか……やれやれ、だよな?」
  その声に狛が反応し、馬鹿にしたような小さな鼻息を漏らす。
  正俊は自分にこの仕事を押し付け……斡旋してきた、『魔女』と恐れられている某幹部組合員の美しい顔を思い出し、溜息をつく。
  しばらく肩から覗き込んでいる耀を撫でてやりながら考え込んでいたが、おもむろに携帯電話を取り出すと、ダウンロードに先月の収入の大半を投じた、新しい何枚かの壁紙の中から複雑な模様を描くものを選択し、今度はカメラを向ける。
  もちろん写すのは風に揺れるネックレスである。
「もしかすると九十九神になったかもしれないのに……」
  小さな電子音とともに画面に写し撮られたネックレスを確認し、壁紙画像と編集で合成する。
「よし……えっと、あれ? お姉様って苗字なんだっけ、魔女じゃないし、電波? ……あ、一式さんに送っちゃえ。……お姉様によろしく……と。よし、送信」
  どこか楽しげな様子で携帯電話をしまうと、今度は何のためらいも無くネックレスを拾い上げポケットにしまう。
  なんともいえない、問いかけるような目で正樹を見つめる耀に、なだめるように呟く正俊。
「……大丈夫だよ、それに後はあの人達が適切な処理をしてくれるさ。さぁ、帰ろう。これ以上やったら大赤字になっちゃうよ――」

  ……顔を上げると、右手にはどこか古い教会の様な印象を与える聖路加タワーと、流れの先に、無数のライトに照らされた勝どき橋が見えた。


おしまい




  sin様( http://www.dnovels.net/users/detail/2099 )の組合員世界の設定を使用させていただきました。

参考
「組合員の日常」( http://www.dnovels.net/users/detail/2099
「鷲は舞い降りた」( http://www.dnovels.net/novels/detail/192
「レッド・データズ・アニマル」( http://www.dnovels.net/novels/detail/510
「テキスト未満」( http://www.dnovels.net/novels/detail/733

 

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過去記事
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2009.06 →GO
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描写練習 09.06.21
『dNoVels』「描写練習♪」コミュニティに参加しました。

人物観察:初めて会った女性編

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  彼女の第一声は「はじめまして」だった。
  幾分ハスキーヴォイスといえるであろう、素敵な響きの優しげな声だったが、僕は端末の画面を注視したまま、座るようにと手で合図する。

「『ワタシハ、ナターシャデス……』日本語は上手じゃない。よろしく」

  端末から顔を上げて流石に少し驚いた。写真とは全く印象が違う。
  途中から英語に切り替えた彼女は、恐らくどんなハリウッド女優でも真似の出来ない、鋭い眼光と妖艶な微笑みを従え座っていた。
  軽く波うつ長くて淡い金髪を結い上げ、大半の日本人では絶対迫力負けするであろう、豪華なドレスとアクセサリーを閃かせている。
  そしてなにより、カシュガルで見た、あの青い空よりもなお透き通った美しい瞳――。
  ……残念なのは、唇の左に微かに残る、隠し切れない傷跡である。ロシアン・マフィアのチンピラをしていた兄貴が、その原因だったらしい。

「ナターシャ? なら僕はアンドレイとでも呼んでくれ。パーティーは2100時まで。このホテルにいる間に頼む」

  彼女は凄みさえ感じる極上の微笑みでそれに答えて、日本側の用意した、消音器付き小型自動拳銃を手にして立ち上がった。 





  楽しませていただきました。
 


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描写練習 09.06.11
『dNoVels』「描写練習♪」コミュニティに参加しました。

人物観察:初めて会った男性編

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 「はじめまして」と、彼は頭を下げた。
  長めの柔らかそうな髪、長身でバランスの良い彼にぴったりとあしらえた、高価で上品なスーツとネクタイ、恐らく私の年収ほどはするはずの時計に月給並みの靴。たぶん、完全無欠の草食系男子。
  全員、半ば珍しい生き物でも観察するような気分でいるのは間違いない。
  彼の挨拶は結局その一言だけだったが、延々と続いた部長の前口上からしたら、いっそ爽快なほどである。そしてもちろん、次は私の番だった。
  なぜだろう? 彼の視線は最初から最後まで、私だけをまっすぐに見つめている。
  それは、部長のような全身を舐めてゆくような、不快な嫌らしい眼つきでも、女と見下したり侮ったりするようなものでもない。不快ではないが、愉快でもない。妙に緊張感のある、不思議な視線。
  なにがあっても、叱ることすら出来ない私の部下――未来の上司。
  不意に、私は彼の視線の意味に気付かされた。
  私たちが観察しているのではない。私が、観察されていたのだ。
  私は気力を振り絞り、一歩踏み出し右手を伸ばした。
「こちらこそ、これからよろしく」




 「はじめまして」と、彼は頭を下げた。
  彼の挨拶はその一言だった。もちろん良い悪いではない。部長の前口上が長すぎなのだ。
  彼が言うべき事の大半は、既に部長が言い切ってしまっているし、部長の語った言葉の大半は、既に全員わきまえている。
  高価で上品なスーツとネクタイ、恐らく私の年収ほどはするはずの時計に月給並みの靴。
  そして、決して命令出来る立場にはない私の部下……未来の上司。
  気の利いた挨拶などとても思いつけない。私は、一歩踏み出し、右手を伸ばした。
「こちらこそ、これからよろしく」


 他の参加者様の作品もすばらしかったです。
  楽しませていただきました。
 

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描写練習 金 09.06.10
『dNoVels』「描写練習♪」コミュニティにある「色彩描写」トピックに参加しました。
色彩描写の練習です。基本的に色彩の描写のみに専念するトピックで、大体3、4行にまとめるのが目安とのことです。
お題は『金』でした。



  それは朝日に煌めく月の露。それは夕日に輝く凪いだ水面(みなも)。
  それは、太陽の光を直接絞って造った芳しき蜜――。
  ……それが、このように美しい造形を伴って手の内に転がると、まるで自身が神となり、太陽をその手にしているかのようだと、シャイロックの頬はついつい緩みがちになるのだった。


 第一弾は二次作品(?)です。
 もちろん、たぶん一番有名なユダヤ人です。


  そのしっとりと滑らかな肌と、深く柔らかな輝きに、人は、心を奪われてしまうのだろう。
  奪われた心を取り戻すべく、それに触れ、手にして初めて気付くのだ。
  ……その輝きに奪われた人々の魂の重みに、秘められた歴史に。
  それは、栄光の光、魂の叫び……黄昏の色――。



 第二弾は、普通に金の延べ棒とかのイメージを描写しました。
 
 そのうちまた参加したいものです。


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三題噺 02 09.06.05
掌編  『大脱走マーチにのせて  ―The Great Escape Match―』

『dNoVels』
のコミュ『短編小説ばかり書いている』のトピック『短編書こうよ♪』の三題噺からです。

お題は 『宇宙船』『メイド』『マッチ』でした。


  日本に来たのは久しぶりだった。
  僕はホテルの部屋で、アキバやギンザで手に入れた、抱えきれないほどの荷物を広げ、“国”では決して手に入らない缶詰の軽食と炭酸飲料を楽しみながら、日本大衆マンガ文化の最高峰と呼ばれる大量の個人出版作品を、西・日辞書を片手に――。

「いやぁああああ!」

  え?

「だんな様!!!!」

  突然浴びせられた、その絶望と恐怖に満ちた悲鳴と、一瞬で、生きた人の肌とはとても思えないほどに青ざめた顔に、僕は殆ど忘れかけていたトラウマに顔を引きつらせてしまう。

「――な、な……!」

  僕が悲鳴を上げて取り乱しているメイドのメリダに、なんとか声をかけようとしたのと、なぜか室内で傘とスーツケースを両手にしている、若くて美しい、めがねのメイド長が飛び込んできたのと同時であった。

「なんと言う事を!」

  その顔を見たら、僕はなにやら相当厄介な状況にあるらしい事は想像できた。
  が、その理由がわからない。
  僕が購入したのは主にオリジナルのファンタジーやスペオペ関連の物がばかり――多少のBL・GL表現が入った物もあったが――だったし、なにより過激で変態的な表現のあるものには手をだしていないのだ。
  それにそれに――。

  と、不意にメイド長が僕を強く抱きしめてきた。

「……なんということを。だんな様――!」

「ちょっとまって、一体なんなの? どうしたっていうのさ?」

「メリダ! 直ぐにこの国を脱出します! 準備を!」

  はっ! と、いままで動揺のあまりあまりその場にへたり込んでいたメリダが一瞬で立ち直って駆け出していく。

「ちょっと! 脱出ってどういうこと?」

「この国から、いいえ、全ての司法機関の手の届かない場所に身を隠さなくてはなりません」  

  僕の思考は完全に停止してしまう。
  このメイド長がそういうなら、僕は絶対にそのようにしなくてはならないのだし、そうするべきなのだ。
  が、あまりにも突然過ぎる。

「で、でも、一体なんで? 僕はロベルタが言うなら、宇宙船に乗って他の銀河にだって行ってみせるよ? でも、こんなに突然……」

「だんな様!」

「抱きしめてくれるのはうれしいけど、その理由が知りたいんだけど?」

「それです」


  それ?

  もちろんどれの事だか全然わからない。
  もしかして僕の買った同人誌の中に、国家を揺るがす陰謀を納めたマイクロフィルムが入っていたとか、麻薬を染み込ませた雑誌が存在するとか、薬品かけると変形してP4になるとか……いや、そんな事で、その程度でこのメイド長がここまで取り乱すことはないのだ。

「だんな様……それは、マッチ(Match)は、高校生しか飲んではならないのです――!」




※ タイトルは『The Great Escape March』のもじり。
  最初からバレバレのしょーもないネタでした。


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小説三題噺 01 09.06.04
掌編 『What a Wonderful World』

『dNoVels』
のコミュ『短編小説ばかり書いている』のトピック『短編書こうよ♪』の三題噺からです。

お題は 『宇宙船』『メイド』『マッチ』でした。


「ねぇねぇ! あんた聞いた?」

  カナコのセリフは何時だって唐突だ。
  それがどこであろうと一切気にしない。そんなところもまたカナコらしい。
  私は少し遅い昼食を、プリントアウトの『小型超音速実験機の第2 回飛行実験における表面静圧計測システム(JAXAのサイトからダウンロードしたPDF)』を片手に、いかにも残り物という感じのAランチを半分と、家から持参のスポーツドリンクで終えたところだった。

「なにを?」

  今出来る事をすべく、黙って心の準備をする。これからカナコの話題に付き合わなくてはならないのだ。
  それまで読んでいたプリントアウトを丁寧にしまいこみ、スポーツドリンクの残りを無理やり飲み込む。

「なにって決まってるじゃない! ・ユ・ウ・コ・!」

  カナコと私の付き合いは、今日で一二年と三ヶ月、と、たぶん二週間くらいになるはずだが、これまで一度も、彼女のこの『決まってるじゃない』に心当たりの合ったためしがない。

「しらない」

  もちろんユウコは知っている。カナコと同じだけの期間交友関係を維持してきた、私には非常に貴重な人物である。
  が、知っているか? と問われて即座に思いつくような、最近の彼女の動向についての情報はしらない。返答としてはこれで正しいはずだった。
  さらに私の返事にカナコの顔が喜びに輝いた、というか、輝いたように見えたことから、どうやらその話を知らないのはごく少数派となっているらしいと察しがついた。
  カナコは噂話が大好きなわりに、情報収集が下手で、そのニュースとしての価値が低下した頃に始めて知る事が多いのだ。
  当然、カナコがその話題をニュースとして披露する事が可能な相手は限られてくる。
  例えば私だ。

「ええっ! 知らないの?」

  もちろん知るはずがない、というより、あのセリフだけで察して欲しいと要求するのは私には酷な話だ。
  それ以前に、どういう訳かカナコは、私が知らない話だという事をこれで確信したらしい。
  私はなぜか人に――特に同姓に――憐れまれる事が多いが、どうやら今回もその類の話であるらしい。
  私は無言のまま、片手をあげてカナコに話の先を促す。

「ユウコね、妊娠したんだって!」

  どうやら私は、珍しくカナコより先に最新のゴシップ情報にふれていたらしい。

「それなら聞いたと思う。教育の誰かが父親だって――」

「やっだぁー! もしかしてなんにも知らないのぉっ?」

  ……間違いない。カナコは私が知らない事を知っていたに違いない。
  だが、それが彼女の中でどう変化して、これほどの笑顔を作り出すのだろう?
  悪気はないが、邪気に満ちた、ある意味実に魅力的な笑顔である。

「あのね、・そ・の・子供が出来たって話は嘘だったんだって!」

  は?

「……だからね? あの子、ユウスケと付き合うためにね――」

  『最終兵器』を使用して男をつなぎとめようとしたが、それがブラフだったと男に気付かれた。
  カナコの説明を聞きながら、覚束ないながらも若い女性の恋心というもののパターンを思い浮かべて、なんとかユウコの心情に迫ろうと試みる。
  これでもユウコとは付き合いが長いのだ。
  ……が、行動パターンとしては認識できるが、私にとっては完全に理解の範疇を超えている。やっぱりユウコの考えはさっぱりわからない。

「なるほど、でも、なんで妊娠なんて嘘を? すぐにバレてしまうだろうに?」

「ええっ! ばれるわけないじゃない!」

「なぜ?」

「ホントに作っちゃえばいいだけでしょ! あんたねぇ、せっかくそんなに美人なのに、そんなんじゃ本当に一生一人者で終わっちゃうよぉ? 宇宙船なんていくつになっても作れるけど、子供は若いうちしか作れないってわかってる?」

  なるほど――……って、どっちもそんなに簡単に作れるものじゃないはずだが?

「……ならなんでバレたんだ?」

「違う違う! バレたんじゃなくて、自分でばらしたの!」

  ……意味がわからない。が、どうやらカナコは本格的に腰を据えるつもりらしい。
  確か一つ三〇万円以上はするはずの、イタリアだかフランスだかの、皮製鞄製造販売会社の定番商品から、オレンジ色のテープが張られたペットボトルの緑茶と、スナック菓子を複数取り出し、テーブルに並べる。ここから見る限り、残った中身は化粧ポーチと携帯電話だけらしい。
  ちなみに私は550デニールもある、テフロン加工された耐火繊維で作られた、NASA関連企業が特別生産した、限定販売のバックパックを愛用している。
  カナコは自身のバックを一生物と言うが、それについては疑わしいこと甚だしい。
  しかし私のバックパックはまず確実に一生物である。

  ……その間にもカナコの口と手はは滑らかに動き続け、次々に明かされる驚異の物語に、私はひたすら驚きながら、耳を傾ける。

「……それでね、あの子ってばそのバイト先で知り合ったオッサ、ごめん、おじさんと――」

  と、長々と、ユウスケの略歴からユウコの近況、更にはカナコ自身のバイト先とユウコのバイト先の相違点(オプションの有無――詳しい事は私には早すぎるそうだ)等々、様々な補足情報を交えながらも、カナコの話はどうやら佳境にはいってきたらしい。
  らしい、というのは、私には理解できない用語や言い回しがあまりにも多かったためであり、カナコの声が興奮状態にある事を示しているからだ。

「つまり、ユウコは、バイト先のメード喫茶で――」 

「メイド、メイド喫茶!」

  Mede? ナントカメイドのナントカを省略してるのか? それとも冥途、冥土だろうか? 接待があるなら、女の子が接待してくれるお化け屋敷みたいな所かも? そういえば、確か渋谷だか六本木にそんな店があると聞いた覚えが……。

「――冥土喫茶で出会った年上の男を好きになったから、ユウスケとの間に出来た子供がいらなくなった?」

  あ、それは嘘だったんだっけ。なら、えっと、本当の事を話したって事?

「それがね、あのね、ユウコってば……」

  なるほど、実はここからが本題だったわけか?

「――でね? 今度は本当に、その年上のおじさんの子供が出来ちゃったっんだって! でね、でね、聞いてよ、その話聞いて、今度はユウスケ君がキレちゃって――!」

  キレた、というのはつまり突然、大した理由もなく激怒する事を言うことだと思っていたが、どうやら真っ当な理由があっても、激怒した場合にはキレた、と表現するらしい。

「――ちょっと、聞いてる? 物凄く大事な話をしてるんだってわかってる? これってあんたにも関係あるんだよ?」

  それはもちろん、いわば竹馬の友という最も大切とされる友人のカテゴリーにある相手についての話題とあれば、知らないままでいいとは、人情としていえないはずである。

「もちろん。しかし、ユウコはつまり、自分で火をつけて、消火に失敗したわけだ、いや、火事にあっているのに気付かず火をつけたのかな?」

  と、私にしては珍しく正確に状況を描写できたと思ったのだが、カナコには通じなかったらしい。

「え! ユウコって放火魔?」

  もちろん違う。こっちがビックリした。

「違う。つまり、失敗したマッチポンプ、いや、本当になったわけだから――」

「あー聞いた事ある、えっと、それ、誰だっけ、ジャニーズだっけ? あ、ヨシモトだ!」

  んー、たぶん違う。

「……例え話で、こっそり自分で火をつけて事件を起こし、公けに自分が火を消す事で何らかの利益を得ることをいう、事件を起こす事をマッチと呼び、それを解決する事をポンプという和製英語……」

「――あああああっ! もう! やめて! マッチでもバンプでも誰でもいいわよ! それであんたはユウコの年上の相手が誰かとか、ユウコがその子供をどうするのかとか、そーゆーのは全然気にならないわけ?」

  もちろんここまで聞いた以上、結末があるなら知りたいとは思う。

「教えて欲しい」

「だったら黙って聞いてて!」

  本当に黙って聞いていたら余計にカナコを怒らせる、それこそキレられる事は知っていたが、それはこの際言わずにおく。
  私は常々経験を無駄にしない人間でありたいと思っているのだ。

  ……それにしても、一体カナコのこの表情にはどんな意味があるのだろう?、

「あのね、驚かないで聞いてね?」

  黙って、驚かない。
  ……驚かないのは難しいかもしれない。カナコは私が絶対に驚くはずだと思っているらしいのだから。

「わかった」

「あのね――」

  ……え?

  どうやら私は聞き逃したらしい。

「え?」

「だから! おじさん! あんたのお父さん! そりゃあんたのお父さんは独身だし、メイド喫茶くらい別に――それに、見た目も悪くないし、でも、いくらなんでも、ね? だって、だってさ、ユウコってば、そうよ、あの子、あんたの妹を――……!」


  ……そして、私は、生まれて初めて失神という状態を経験し、生まれて初めて救急車によって搬送されるという経験をした、らしい。


  ……私には、理解できない事が多すぎる――!


おしまい(?)



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