邦浪記− Far The Paradise To The Border −

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管理者近影(新橋にて)
 

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秋の奏鳴曲
−砂糖一杯分の幸せ−
09.10.29
『dNoVels』短編・断片集『スローワルツの午後』に投稿しました。

「ごめんね! すぐに終わるから!」

  軽い唸り声のような適当な返事を返し、クローゼットの脇に置かれた小さなテーブルに座って、一心不乱に化粧している彼女に、恐る恐る声をかける。

「ね、砂糖ってある?」

「えー! 砂糖入れるの? 糖尿になってもしらないよ?」

  一部音声が潰れて聞こえたが、口紅を塗っていたためである。繊細さと気合の両方を大量に必要とする作業ではあるが、リップブラシを片手に、至って気軽に台所へと立つ。

「はい、あんまり沢山入れちゃダメだよ?」

「わかった」

  素直に頷き、有り難く使わせてもらう。
  それにしても……。

「最近英国風が流行りなのかな?」

「えぇ? なにが?」

  いや、と、適当に言葉を濁して、もう一度部屋の様子を観察する。
  ユニオン・フラッグの入った鮮やかな色合いの化粧ポーチ。壁には複数のユニオン・フラッグ。正確に言えば、ユニオン・フラッグと、レッド、ブルー、ホワイトの三種類のエンサインがデザインされたロールスクリーン。部屋に流れる音楽は、バグパイプの音色が美しいスコットランド民謡。
  ……どうやら間違いは無いらしい。

「今日の映画どうする? イギリス映画も何かあったよね?」

「そうだっけ? でもさ、ディズニーの新しいのあったでしょ? あれ見たかったんだよね?」

  最後の仕上げの、柔らかな眉のラインに入っているため、その台詞は妙に間延びして聞こえて来た。

「じゃあディズニーでいい?」

  うん。と一言。指で軽く押してラインを整えている。

「そっか。なんか完全に英国趣味に走っちゃったのかと思ってたけど、そうでもないんだね……」

「えぇ? なんで英国趣味? 意味わかんないんですけど?」

  口で言っている台詞と、態度が全く違う。この場合「意味わかんないんですけど?」の真意は、「どう? 綺麗に決まってる?」という意味である。
  間違っても自分の台詞の『意味』など解説してはならない。

「おおお! いいじゃん! かっこいいよ、今日はお姉さま系で行く?」

  へへへ、と、こっちまで思わず笑っちゃうくらいに、楽しそうに笑う顔を見て、密かに胸を撫で下ろす。
  良かった。最近ようやくまともな化粧を覚えてきている。
  正直、今日予約を入れた店に、赤いアイシャドーに真っ赤な口紅、目の下には涙のような十字架、頬にハートやドクロのマーク入りとかでは入り難かったのだ。

「折角だからさ、この間買ったジャケット着てよ、きっと似合うからさ?」

  どうやら未だにゴスロリ系の影響の残る、白いレースのスカートと、真っ赤な飾り紐のついた漆黒のジャケットを着るつもりであったらしい。
  確かにニーソックスは好きだが、この上レースの髪留めとかされても困る。

「化粧も大人の女性的な雰囲気だし、スーツほど堅くないし、絶対似合うと思う」

  とりあえず駄目押し。

「それにさ、履くチャンスが無い、って言ってたブーツに合わせたら、ちょっとブリティッシュスタイルっぽくなっていいんじゃない?」

  どうやら助かったらしい。
  有楽町はともかく、銀座はゴスロリっ娘連れて歩きたいと思うような街ではないのだ。

「わかった。それにしても、なんでそんなに英国風にこだわるの? いっそメイド服でも着てあげようか?」

  はい? 冗談ではありません。

「こだわってなんかないけどさ、なんか英国風な気分なのかなーって……?」

「どうして?」

  と、多少恥ずかしげな様子を見せつつも、さっさと下着姿になって着替えを始めるのを横目に、無理やり、もう一口だけココアを飲んで、それに答える。

「だってさ、英国の国旗だらけだし、音楽もスコットランド民謡でしょ? このココアもそうだけどさ?」

  言われて言葉に詰って聞き返してくる彼女。

「国旗? スコットランド? ココアは森永だよ?」

  ……え?

「これも、これも、これも、あとそこにあるのも、英国の国旗……」

「へーそうなんだ。かわいいよね!」

  ちょっとまて。

「この音楽はイギリス北部のスコットランドって地方の民謡だって知ってる?」

「エンヤかと思ってた」

「このしょっぱいココアは、ロイヤル・ネイヴィーの――」

「うそ! まぢ? しょっぱい?」

  慌てて自分用に入れたココアを一口。
  ウバとうわの中間音で、砂糖と塩を間違えた事を告白する彼女。

  あちゃー、とかなんとか、ごにょごにょ言ってる彼女に早く着替えるように促し、ため息をひとつ。
  糖尿以前に高血圧だよなぁ、などと思いつつ、立ち上がって飲みかけの甘しょっぱいココアを流しに捨てる。
  一体いつになったら、愛するこの娘を両親に紹介できるようになるのかと、半ば絶望的になりながらも考え込んでしまう。

「……こんど、一緒に料理教室でも行こうか……?」




おしまい


 

! dNoVels
Linkに説明があります
詳しくは実際に確認してみてください(投げやりですまんです)

コチラ→GO
過去記事
2009.10 →GO
2009.06 →GO
2009.05 →GO
2009.04 →GO
 


三題噺
O zittre nicht, mein lieber Sohn
―魔女の託宣2―
09.10.15
『dNoVels』短編・断片集『スローワルツの午後』に投稿しました。




 不意に耳元で叫び声が上がり、目の前の壁から天井にかけて、凄まじい量の血飛沫が飛び散る。
  一瞬その情景に目を奪われそうになるが、軽くため息をついて視線を外に向ける。

「わかってる、苦しかったんだよね。ローンが残ってる間は別にいいけどさ、それまでには素直に成仏してよ?」

  中央区の河辺に聳える数棟の高層マンション、地方都市並の総床面積を誇る巨大な建造物の一室。
  地上三八階、5LDK。まともに購入すれば、恐らく億単位の金が必要とされる筈の一室である。
  数年前に殺人事件の現場となっていらい、様々な怪異が発生し、住む者も無く、二度目の殺人事件が発生し、さらに何人かのオーナーが次々に自殺(または変死)して以降は空き部屋となり、今は正俊の塒である。
  もちろん通常のルートで手に入れたのではない。
  四〇年ものローン残額は馬鹿にはならないのだが、裏の管理人としての報酬もあるため、月額僅か六万円ほどの支払いにしかならない。
  ダイニングからは、手前から聖路加タワーに東京タワー、それから六本木ヒルズが美しい都会の夜空に華をそえ、日中は(大気の状態次第では)遥か富士山まで見渡せる――。
  ……再び耳元で、命そのものへの呪詛が聞こえる。

「うんうん。わかってる。でも、僕ならいいけど、他の人にそんな事言っちゃダメだよ? 変な人だと思われちゃうからね?」

  三〇畳もあるそこには、カタログ販売の安ソファー(ソファーベッドである)と、地下の粗大ゴミ置き場から拾ってきた、買えば恐らくソファーの五〇倍はするはずのローテーブル、渋谷のリサイクルショップで購入した店舗用の冷蔵ケース。それしかない。
  ローテーブルには、試供品のカルーアの小瓶と、メールボックスに溜まっていたダイレクトメールの束。
  冷蔵ケースから牛乳を取り出しグラスに注ぎ、テーブルに放置されていたカルーアを入れる。

  ソファーに腰掛けようとしたところで、落ち着いた間接照明が明滅し、ため息を一つ。

「それは止めてよ。目が悪くなるだろ?」

  慌てず床に触れるとなにやらお経めいた言葉を発し、キッチンの方へ目をやる。

「少し一人の時間が欲しいんだ、ちょっとこっちへ来て?」

  と、片手にカルーアを少量垂らすと右手でテーブルの何箇所かに少量づつ、丁寧に塗りつけてゆく。

「これで少し静かにしてくれる?」

  再び絶叫と壁に血液の飛び散るのが見えたが、その後は何事も起こらない。
  さて、と一言漏らし、ソファーの足元に転がっていたバックから、レッツノートのRシリーズを取り出す。
  メールを確認していた所で不意に顔色が変わり、慌ててダイレクトメールの山をかき回し、封筒を一つ見つけ出す正俊。
  ポケットからアーミーナイフを取り出すと、もどかしそうにハサミを開き、慎重に口を切る。
  そっと傾け、中から薄く小さなカードケースを取り出す。

「――うあぁ、めっちゃくちゃ頑丈そうな呪符。どーやってこれを解けと……?」

  渋い顔をしながら立ち上がり、書庫兼書斎に使っている八畳ほどの部屋に向かうと、味もそっけもない事務用のスチールデスクに腰掛け、書棚から取り出した書籍を、真剣な表情で読み始める。
  小一時間もそうしていただろうか、突然、書斎の奥に手首から血を流している男が現れ、手にしていたナイフで自分の首を切り裂く。 
  再び飛び散る鮮血。 

「あー……うん。放っておいてごめん」

  言いながら、事務机の横に置かれていた日本酒を手に取り、引き出しからグラスを一つ取り出し半分ほど注ぐ。
  それを両手で掲げて、部屋の四方にお辞儀をし、何やら呟きながら窓際まですり足で進むと、二つの塩が盛られた間に恭しく置く。

「これでしばらく我慢してくれる? 話はまた後で聞くから」

  再び飛び散る鮮血が見えたが、意識は既に、そこには無い。
  手の上でカードケースをじっくり眺めると、どうやら正俊個人を認識できるらしい。
  力を加えると、微かに浮かび上がる、輻輳する多重構造の微細魔方陣。
  正俊が知る魔術の形式とはかけ離れているため、正面から解呪するのは不可能だろう。
  一応専門の魔道書から、怪しげなトンデモ系の解説書まで、ざっと魔術系の呪符に関する知識復習を行った正俊だったが、それを打ち破る方法などとても思いつけない。
  形態からなんとかソレを開くヒントを得ようにも、魔術に関する知識が圧倒的に足りない。

「普通解かせる為に送ってくるものだと思うんだけど……いや、泣き付いてくるのを待ってるのかな?」

  額に汗が浮かんでいる。
  選択肢はいくつかあるが、どれも後々どんな厄介事に発展するか分からず恐ろしいし、仮にも「緊急」として送られてきたモノだけに、放り出すのもマズイ。
  本当の緊急事態なら、某一式氏なり一久御坊なりに連絡するはずであるから、仕事上の緊急事態ではなく、お姉さまにとっての緊急事態なのだ。
  つまり、下手に手を抜くと、命に関わる危険が潜んでいるという事である。、

「絶体絶命?」

  いや、あきらめちゃダメだ。
  きっとなにか方法があるはずだ。

  軽く振って中身を確かめる正俊。

  中は恐らく名刺かカードか……カード?

  ポケットから携帯を取り出し、某超常事象復旧協同組合事務所を選択する。
  待つ事二コール。

「はい、こちら超常事象復旧協同組合、一式事務所でございやす。お名前とご用件を――」

「よかった、コタロー君! 教えてください! お姉さまが普段郵送で使う情報記録媒体って何か知りませんか?」

「これは正俊さん、お久しぶりでやす。あっしが知ってる限りでは、確かインテグレーティッ――」

「ありがとう! お礼はまた今度! あ、くれぐれもこれは内緒にしてください!」

  間違いない!

  慌てて書斎を飛び出し、寝室に向かいかけた所で、もう一度リビングに戻ると、バックからリボンの付いた小さな箱を取り出し、物置代わりになっている寝室のウォークインクローゼットに飛び込む。
  と、クローゼットの奥で、嫌な形に首を曲げて泣いている、金髪の少女がいた。

「……忘れてたわけじゃないよ。えっとはい。これ、今日プランタンで買ってきたんだ」

  と、少女の前にソレを置き、ロシア語で祝福の言葉呟きながら、十字を切る。

「今度はブルーベリーのクッキー買って来るから、今日はそれで静かにしてもらえる?」

  少女が消えるのを確認し、慌ててダンボールの山を崩して探し物を始め、五分ほどで目的の品物を発見する。
  即座に今度はリビングへ戻り、レッツノートに電源をつなぐと、持ってきた装置をUSBケーブルで接続する。

「……よかった、壊れてない。あとはお姉さまがどれだけ完璧な電磁制御技術を持っているかだけど?」

  恐らくそれについては心配は要らないはずであった。
  OSが新しい機器の接続を認識し、起動させたのを確認する。 

「頼む……!」

“ピッ!”

  安堵のため息が漏れ、とても言葉にはならなかった。
  思ったとおり、中身はICカードなのだ。もしかしたらそれだけではない可能性もあるが、必要な情報は全てそろっているだろう……多分。
  電子魔術といいながら、余計な雑電磁波の全てを押さえ込んだ、究極といっていい程の電磁呪符。
  だが、今回は、その完璧さに救われた形だ。

「流石はお姉さまって事なんだろうけど……」

  ともかく、読み込む事が出来た情報を確認してみる。
  データの量そのものは少ない。入っているのは、URLと数キロバイトの情報キーだけ。
  これでデータをダウンロードして解凍し、暗号化された情報を復号するだけだ。

「これはミスなのかな? それとも何かのワナ?」 

  一言呟き、会員になっている通販サイトから、鹿児島産の最高級鰹節セットとアゴ出汁醤油を注文し、あて先を一式事務所にして、宛名をコタロー君にする。

  そして、復号が終わった……。





*****************************************************************************

      『礼司君のお誕生日会への招待状』      

  期日 〇月〇日                     
  場所 〇?△?・・・                  
  集合時間 19:50まで                
  持ち物 招待状 プレゼント 得意な武器                   
  注意 シークレットパーティ!全員極秘で集合する事!    
  この招待状が無いと、会場内での安全は保障できません

*****************************************************************************


  内容を確認し、当日の直前まで、今度こそ決死の思いで解呪に挑んだ正俊だったが、結局、それは適わなかった。
  そして、サプライズパーティーとやらに参加した面々が、一体どんなサプライズに出会えたのか――。

  ……主賓の一式氏をはじめ、関係者達の口は、限りなく重い。

おしまい



  sin様( http://www.dnovels.net/users/detail/2099 )の組合員世界の設定を使用させていただきました。

参考
「組合員の日常」( http://www.dnovels.net/users/detail/2099
「鷲は舞い降りた」( http://www.dnovels.net/novels/detail/192
「レッド・データズ・アニマル」( http://www.dnovels.net/novels/detail/510
「テキスト未満」( http://www.dnovels.net/novels/detail/733

 

! dNoVels
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詳しくは実際に確認してみてください(投げやりですまんです)

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